• ことばによる薫陶(くんとう) ~長田 弘

    ■ ことばによる薫陶(くんとう) ■

    世界はうつくしいと ~ 詩人・長田 弘

    うつくしいものの話をしよう。

    いつからだろう。
    ふと気がつくと、
    うつくしいということばを、
    ためらわず口にすることを、
    誰もしなくなった。

    そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。

    うつくしいものをうつくしいと言おう。

    風の匂いはうつくしいと。

    渓谷の石を伝わってゆく流れはうつくしいと。

    午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。

    遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。

    きらめく川辺の光りはうつくしいと。

    おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。

    行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。

    花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。

    雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。

    太い枝を空いっぱいにひろげる
    晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。

    冬がくるまえの、曇り日の、南天の、

    小さな朱い実はうつくしいと。

    コムラサキの、

    実のむらさきはうつくしいと。

    過ぎてゆく季節はうつくしいと。

    きれいに老いてゆく人の姿はうつくしいと。

    一体、ニュースとよばれる日々の破片が、

    わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。

    あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。

    うつくしいものをうつくしいと言おう。

    幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。

    シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く。

    何ひとつ永遠なんてなく、

    いつかすべて塵にかえるのだから、
    世界はうつくしいと。

    #美しいものを見つける目
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  • 香りの印象美 ~ 紳士たちの空間

    東京南青山にあるEDWARDECRUSショップ用の
    空間フレグランスを、代表の木場氏から
    オーダーいただき、先月、納品いたしました。
    まず悩んだのは、
    アロマミストのようなスプレーか、
    デフューザーを使うものか、、、
    いろいろ考えた結果、
    男性でも管理や調整がしやすく、
    インテリアにもなり、
    置いておくだけで香るという特長のある、
    ポプリにすることに決めました。
    一般的にポプリというと、
    ドライフラワーや木の枝、木の実などに
    香りをしみこませて使うイメージがありますが、
    男性にはあまり似合わない気がする。
    そこでフランスのブランド・マドエレンのように
    鉱石など、硬質な自然素材をイメージし、
    今回、セレクトしたのは、フランキンセンスの樹脂。
    オマーン産の上質なものを厳選しました。
    樹脂そのものが蜂蜜のように、
    イエローがかっているため、
    器は、アンバーカラーの
    英国アンティークガラスポットを探しました。
    これならば、蓋の開け閉めで香りの強弱が
    自由にコントロールできます。
    木場氏からリクエストいただいた
    フレグランスのイメージは、
    『 清浄でウッディーな香り 』
    シトラスベースで、程よくスパイシー。
    穏やかで優しい香りです。
    アクセントのフランキンセンスは、
    キリストの誕生を祝い、
    三博士たちが捧げた贈り物のひとつ。
    黄金と並ぶ、高貴で聖なるものであるため、
    今もなお、清浄な祈りの香りでもあります。
    好みの濃度に微調整しながら、
    数滴を樹脂にしみこませながら使います。
    このブレンドオイルの香銘は『雪の香』
    本来、香りのない雪の、
    風景を純白に包み込む無音の静けさや、
    触覚は冷たいのに、
    視覚には温もりを感じる、
    絹の原糸のような
    “白 エクリュ”をイメージした香りを
    調香師のかたに創香していただきました。
    また、雪解け時期の、
    湿った土の香りの懐かしさも内包しています。
    実はこの香り、
    加賀百万石の藩主・前田利家公の
    生誕地や生年月日からホロスコープをつくり、
    守護となる植物を組み合わせています。
    潤沢な財力を、
    武力ではなく芸術文化に投資した、
    加賀百万石の政策もまた、
    “装いの美学”に通じる優雅さではないかと
    考えた次第です。
    ネイルパフュームオイル『Benedictionf』
    水引のカフリンクス『雪のひとひら』に続く、
    金澤コラボレーションの機会をありがとうございます。