待合室でいつも開いてしまう『男の年輪』
日経新聞の『私の履歴書』を飾った写真を
収録したものの一部を集めた写真集ですが、
待合室のやや高い場所、
子供の目線には見えない場所に、
ひっそりと、この一冊が存在するセンスが私好み。
この耳鼻咽喉科では、補聴器の無料貸出を
勧めるポスターが貼られていた。
補聴器の使用は、老眼鏡の何倍も、
心情的に躊躇うことだと思う。
年を重ね、褪せゆく身体に
やるせない切なさも感じるかもしれない。
そんなとき、文豪や、芸術家や、政治家の、
年輪を重ねなければ表現できない、
匂いたつような渋みや鋭さ、
豊かな自我や、独自の包容を、
その貌から感じられたとしたら、
人生の褪せゆく旅路の意外に長いことにも、
期待や愛しさを感じるのかもしれない。
老眼の男性が目を細める仕草は、
大人の色気がにじむ、なんとも魅力的なもの。
とはいえ、深みをもって成熟し、
仕草や風貌からも味わいが増すことは、
放っておいて身に付くものではなく、
そんな自分の未来を
イメージし続けた人だけが、
手にすることが許される、
大人の勲章のようにも思う。