大人の女が美しい ~ 長沢節 (ながさわ せつ)

孤独が健全に機能して
心の飢えをつくり出したとき、
人はそれを「淋しい」というのであって、
淋しくなることは
素晴らしいことでなければならない。
『 仕事の本質は愛である~の章より抜粋 』
著者の長沢 節(ながさわ せつ)氏は、
1917年生まれ。100年前の日本に生まれ、
戦後、ファッション・イラストレーターの
第一人者として活躍し、
主宰するセツ・モード・セミナーからは、
花井幸子、金子功、川久保 玲、山本耀司、
早川タケジなど、日本のファッション、広告、
雑誌界の第一線で活躍するクリエーター達を
多数、輩出しました。
この本は、初版が1981年で、
それ以前から連載したものをまとめているので、
およそ40年ほど前に書かれた文章になります。
ところが、書かれていること一つ一つは、
現代の最先端のクリエーターが、
昨夜、書いたかのように瑞々しく、
微塵の古くささも感じない。
風俗の語りのなかに、
テレビジョンが自宅にやって来た話が出て、
ああそうか、そんな時代ですね。と、
ようやく思いだすほど、
思考そのものは、
むしろ、胸をすく凛々しい潔さで、
たまらない新しさを感じてしまう。
今年、手にしたこの一冊を、
すでに三回読み返し、
紡がれる言葉を反芻しながら、
インストールしたい自分が存在しました。
著者が男性ということすら最初は知らず、
何の先入観もないまま始まった出会いですが、
行間から語りかけるカリスマ性が途方もなく、
何故そんなに惹き付けるのかを考えてみると、
誰かのお仕着せでなく、
ひとの顔色も伺わず、
正しさや責任にも縛られず、
のびのびとした精神から、
固有の美学が無邪気に語られていて、
そんなスタイルがむしろ、
大人だけが行使できる当然の権利であり、
本物の自由に思えてくる。
つまり、
身を縛らない物質の自由(freedom)ではなく、
社会的に独立した精神の自由(liberty)を、
感じるのです。
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文中より
「父母の愛は全ての愛の基本」
などという、昔からのいい伝えが
いかにインチキかということも
知っておいていいと思う。
むしろ、人間の本当の愛は、
父母兄弟などという、
分身の愛(エゴイズム)を
一刻も早く断ち切ったところから
始まるのだと思いたい。
つまり籠の中から外へ翔び立った瞬間に
人は自分の孤独な存在に気づくと思う。
胃袋が餌に飢えるように
心も飢えるのに気づくのである。
心の飢えは他人を求め、
他人を食らうことでしか癒されないが、
私たちはそれを「愛」と呼んでいるのだ。
他人と世界は同義語だが、
世界の中から特定の個人を選んで食べる愛を
「恋愛」というならば、
世界そのものと直接関わる愛を
「仕事」と呼んでいる。
だから仕事が生きがいというのは
嘘ではないし、
世界と一人の個人との
深い関わりをつける「仕事」をすることでのみ
孤独の飢えは満たされるわけだ。
だから人は死ぬまで他人を求め、
仕事を求め続けるのであって、
決して途中でやめたり、
休んだりはしないのである。
~中略
孤独が健全に機能して
心の飢えをつくり出したとき、
人はそれを「淋しい」というのであって、
淋しくなることは
素晴らしいことでなければならない。
『 仕事の本質は愛である~の章より抜粋 』