簡素でありながら、贅沢
金沢のお雑煮は日本一シンプル。
丁寧にとったおだしと、角餅。
我が家は柚子とセリを少し添えますが、
鰹節だけをチラリも好き。
お正月のお餅を注文してみました。
真っ白で柔らかい。絹のような美しさ。
でも、出汁のなかで煮溶けるため、
金沢のお雑煮には合いませんでした。
濁りのない澄んだお出汁が信条だから、
コシが強く、粘りのある良質なお餅でなければ
このシンプルなお雑煮は成立しないのです。
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「 簡素でありながら、贅沢 」
そんな金沢のお雑煮がしみじみ好きです。
我が家のお雑煮に、もうひとつ欠かせないのは、
羅臼の昆布。
私の実家は紳士服テーラーでしたが、
父が生地問屋にいた頃の赴任先が北海道で、
そこで羅臼の昆布の美味しさに驚き、
我が家のお歳暮は半世紀変わらず
「羅臼の昆布」でした。
大きな段ボールに入った昆布が
北海道の問屋から11月に届いたら、
家族総動員で、母が1枚1枚包装紙に包み、
兄が熨斗にお歳暮の判子を押して、
私が段ボールに仕分けし、
父がライトバンにいっぱい昆布を積んで、
お世話になった方々の家を一軒一軒、
朝から夜まで挨拶回りしていました。
年末に昆布を配ると、お節やお雑煮の
準備をしている奥様方にも大層喜ばれ、
「ちょっと上がって一杯どうぞ」
というコミュニケーションもよくあり、
父は本当に愉しそうでした。
(飲酒運転にたいして世間がおおらかな時代)
私も年頃になると知恵がつき、 .
「もう少し良質な包装紙にしたら?」 .
「昆布の稀少性がわかる説明書つけたら?」
などと、わかったようなことを言いましたが、
父は頑として .
「簡素な包装紙で、説明書がなくても、
わかる人にはちゃんとわかる。
本質を見抜くお客さんが誰なのか、
昆布を配ればよくわかる」
と、自信満々に言っていました。
あれは父なりの実践マーケティングで、
「 簡素でありながら、贅沢 」
そんな価値観を共有できる人を、
半世紀かけて探していたのかもしれない。
生まれ育った町の文化と、
生まれ育った家の文化、
生きてきた歴史、人の縁によって、
人それぞれの価値観は創られる。
人生をかけたクリエイションであり、
唯一無二の芸術が、価値観。
私はその「価値観」という個人芸術を
言語化、可視化する
コミュニケーション・サポートを
生業としていますが、
そこにはいつも 「簡素でありながら、贅沢」を
最上とする、私固有のフィルターがあることを
忘れてはいけない。
#WORDROBE
#簡素でありながら贅沢