装丁道場 ~ 28人がデザインする『吾輩は猫である』


28人がデザインする『吾輩は猫である』

誰でも知っている文学作品だけど、
ちゃんと読んだことがある人は少ない本書を、

大正11年アメリカで刊行された book design

新たに手に取り愉しんでもらうために、
28人のデザイナーがそれぞれに、
本文組み、装丁、本文用紙に
創意工夫を重ねてbook design し、
その意図を詳細にプレゼンテーションする
という、おもしろい一冊。

同じ題材から、
これほどバリエーションが拡がるという
人間の発想力にも感動するし、

たった一冊のために、デザイン、印刷、
箔押し、特殊加工、製本、撮影するという
贅沢さに、本という無限のファンタジーを
愛する、印刷業界の矜持を感じました。

私が一番好きなのは、松田行正さんの作品。

大きな余白に、
最小限の情報が添えられているだけの、
究めてシンプルなデザインですが、

猫の毛を想起する紙質や、
文字の羅列、配色などで、
“五感で感じさせる”
“記憶を引き出す” という技が、
巧みに投じられている。

また、古代ギリシャの伝統を踏まえた、
オーセンティックな思考もとりいれつつ。。。

考えてみれば、
電子書籍なら全て不要な手間隙。

本は、紙という資源を消費するし、
印刷は誤植という大きなリスクがある。
物流という点でも然別。

全てにおいて、
悲合理的なこと、この上ない。

でも、作者が身を削って書いた作品を、
ブックデザイナーが知恵と工夫で
より素晴らしいものにし、
印刷加工会社が形にするという、
人間くささの魅力は、AIには持ち得ない。
いつの時代も、
人間にインスピレーションを与え、
人生の師となる名著は、
魅力的な装丁でドレスアップしてほしいと
願うばかり。
この写真は、
京都の素敵なマダムが営まれるお店の本棚