北陸温泉紀行 ~ べにや無何有(むかゆう)

■ 自分をからっぽにする小さな旅 ■
自宅から車で45分、
毎年訪れる、特別な異空間。

午後3時にチェックイン。

『 お連れ様がご到着です 』

と、仲居さんから声がかかるであろう、
午後7時までは、
ゆっくり温泉で自分をメンテナンスし、
その後は、本を読んで過ごす甘美な孤独。
夕陽や、夜空を見上げながら、
風の音や、鳥のさえずりを聴きながら、
ゆっくり安らぐ露天風呂。

有吉佐和子の『青い壺』は、
現実逃避に最適な一冊で、
温泉読書に選んだことに小さく拍手。
記憶に残った、登場人物の言葉は、

『人間には贅沢というものが必要なんだ』

『味覚というのは、教養だからね』

貧しい生活を強いられた戦時中の、
貴族のことばに一方的に共感する、
平成の一幕。
夢のように、静かにひっそり、
足早にながれゆく、
息をのむほど美しいこの時間は、
一年分の自分への感謝。

帰りはケルンでケーキを買って、
“ 天上の余韻 ”を引きずりながら、
自宅でゆっくり、本の続きを読もう。