〝大人の世界〟とは永遠の理想郷~写真集『セーヌ左岸の恋』

エド・ファン・デア・エルスケンの作品

写真集『セーヌ左岸の恋』では、
刹那的な退廃した世界で生きる
パリの人々が写し出されていて、

初めてそれらを見た少女時代、
まさに大人の世界そのものだと
感じられた。

そして今、改めてエルスケンの写真を見ると、

そこには、今の自分より明らかに若い人々が
存在しているのに、

まだ自分は到達していない気がする不思議。

世阿弥の〝 初心、忘るべからず 〟とは、
若い頃の、初々しい清らかさを忘れない。
という肯定的な意味ではなく、
『芸の未熟さ』『初心者のみっともなさ』
あの頃の恥ずかしく惨めな時代の自分を
忘れてはならないという自戒の言葉ですが、
年齢は、十分過ぎるほど大人の今だって、
未熟、自惚れ、虚勢、臆病といった、
中途半端な人生の状態と
対面することも万々あるわけで、
未だに境界線が見つからず、
大人の余裕や、自由や、寛容には程遠い。
大人の世界というのは、
優れたアーティストにしかつくれない、
“理想郷” なのかもしれず、
だからこそ、
永遠に追い続ける〝憧れ〟でもあるのだろう。